男泣き!の第九
コバケンこと小林研一郎指揮日フィルの第九、三日連続演奏会が終了した。
このところ、第九の記事ばかりだか、シーズンなのでお許しいただきたい。それにしても、コバケン日フィルで三日連続で第九の合唱を歌わせていただくなんて、本当に感謝というほかは無い。
今年私は職場(会社)がかわったのだが、その新しい職場の同僚がクラシック好きであることを知り、「第九を歌わないか」と強引に日フィル合唱団に誘った。同僚の彼は、合唱も初めてではじめは尻込みしていたが、本当にマジメに練習に通った。そして、一日目のサントリーホールでの第九では、第一楽章で不覚にも涙が出てきたという。勿論、感動のあまりである。そして、昨日の三日目最終日は、第三楽章でやはり泣けてきたのだという。第九で男泣きか! なんて素晴らしい感性豊かな同僚なんだろう。コバケンの感情移入たっぷりの指揮の姿と三楽章の愛しむような美しいアダジオを聴けばさもありなんである。私も思わず目頭が熱くなった。
第3楽章アダージョ。素晴らしく美しい音楽だ。「第九が3楽章で終わってくれたら、どんなにか嬉しい」と言った人がいたそうだ。4楽章の合唱は例えようもなく偉大な音楽だが、第九全体から見れば異質とも感じられる。その点、3楽章はただただ美しく、「ベートーヴェンのアダージョで最も美しい」とか、「ベートーヴェンが書いた最美の音楽」ともいわれる。でも、私にとっては「世界で一番美しい音楽」なのである。
さて、我々合唱団の出番である第4楽章について。最終日はオペラシティ タケミツ・メモリアルホールであった。このホールの響きは素晴らしい。ピラミッドの内部のような構造で、ゲネプロの時は残響が大きすぎてビックリしたが、客席が満席になるとかなり落ち着き見事な響きになる。しかし、1600席とやや小ぶりなのと残響が豊かなので、強い音だと飽和状態になりやすいようだ。
そんなことも影響したのだろうか、コバケンの合唱団への指示を聞いて驚いた。一つはドッペル・フーガの後「R」の終結、ソリストの四重唱前の「liber Vater wohnen」の部分。wohnenをソプラノ以外のパートを「ハミング」で歌わせたのだ。コバケンはデューナミク(音の強弱)を大胆に表現するが、これは極致だ。確かに、父なる神が星空の彼方にいるに違いない・・・という願望と確信がこのハミングに託されているのだ。
もう一つ、第九のハイライトともいうべき威勢のいい「M」の部分(Freude schner Gotter funken・・・)を、なんと「イタリアの愛の歌」のように歌えというのだ。初日のサントリーの時から、「パッションが必要。しかし、大きな声はいらない。美しく深く豊かな声で・・・」とのダメだしがあったが、まさかMを愛の歌とは・・・・・。そして、コバケンは自らピアノのところに行って、有名なイタリア民謡「カタリ、カタリ」を弾きだしたのだ。そのピアノの上手なことといったら。
このことをフェイスブックに書いたら、2人の「顔友」から賛同のメッセージが届き嬉しくなった。1人は「ベートーヴェン自身が振ったならば、案外こういったタイ
そうか、第九=愛の歌 はおかしくないのか。そこで思い出したことがある。もう5年位前のことだろうか、鎌倉の市民合唱団で歌った第九。日本語の第九のことである。訳詩は歌謡界の大御所 なかにし礼である。彼の詩は、バス合唱の歌いだし「フロイデ」を「あい」と歌うのである。Mの部分を見てみよう。以下のようになる。
愛こそ歓喜にみちびく光
さえぎる苦難を越えて進まん
そして、終演後の打ち上げ会でのコバケンの言葉。楽譜は単なる音符や記号の羅列でしかない。その行間、そこに作曲者のどのような思いが込められているのかを見つけるのが音楽家の仕事だと・・・・。まさに音楽は再現藝術であることを端的に語っている。先に紹介した顔友の言葉「楽譜の呪縛から自由であれ」とも通じるところがある。彼自身、この解釈はやりすぎではないかな・・・と思うことがあるという。しかし、これはベートーヴェンが許してくれるのではないか、否ベートーヴェンが求めているものに違いないという確信を持って指揮するのだという。
コバケンの第九は独特である。誤解を恐れずに言えば、ベートーヴェンの第九というより、コバケンの第九に近い。しかし、それは彼が何百回と第九を指揮してきたなかで醸成・熟成された解釈で、これをあれこれ評する意味は無に等しいと思う。それほどコバケンは第九を研究しつくし、それでも時に解釈に迷う時は「ベートーヴェンが現世に降りてきてくれないかと祈りを捧げる」という。一方でコバケンは「今日の演奏は、少しでもベートーヴェン(の理想に)に近づけたかもしれない」という謙虚な気持を常に忘れないのだ。まことに真に偉大な指揮者といえよう。
我々合唱団は、小林研一郎の指揮で第九が歌えて本当に幸せである。
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